特定承継遺言と遺産分割
特定の財産を共同相続人の1人または数人に相続させる旨の遺言を特定承継遺言と言います。
民法改正前から判例により「相続させる旨」の遺言は、遺言で遺産分割の方法を指定したと解釈され、遺産分割は終了し、指定された財産は相続人に帰属すると解釈されていました。
民法1014条は特定承継遺言について次のように規定しています。「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)」
特定承継遺言と違う内容で遺産分割協議ができるかという議論があります。
法務局は、提出した書類のみの形式的な審査しかしないので、遺言がなかったものとして遺産分割協議書を添付して登記申請することができますが、それは、遺言を無視したことになり無効であるという考えがあるようです。
以前は、遺産分割協議書に〇〇遺言の存在を示し、その内容と異なる遺産分割協議をしてことを記載した協議書でも受理されましたが、何年か前に登記先例がでたことで、特定承継遺言がある場合の遺産分割協議は受理しないようになりました。そこで、特定承継遺言の内容と異なる遺産分割をしたい場合、遺言がなかったものとして遺産分割協議書を添付して登記申請することになります。
Twitterで話題になっていましたが、特定承継遺言がなかったことにしないで、遺言の内容で登記申請をして、その後、贈与や共有物分割、交換などで所有権変更登記をする司法書士が多いことに驚きました。
弁護士の先生は、遺言がなかったものと考えて遺産分割協議をするという考えの人が多いようです。
私は、依頼者の負担を考えると遺言がなかったものとして遺産分割協議をすると思います。
私は、過去、登記先例が出る前は、2件ほど、協議書に遺言の存在を示して遺産分割をしたことがありますが、先例が出た後は、そのような事件がないですが、やはり遺言がなかったと考えて遺産分割をすると思います。
まず、裁判所の調停は遺言がなかったものとみなして進めることが多いと思います。
また、贈与や共有物分割、交換で名義変更すると登録免許税が高額になり、不動産取得税が課税される可能性があります。
実態法と異なるという考えはありますが、契約の名前が異なるだけで、遺言と贈与や共有物分割、交換を足した契約か協議による取得かという問題で、最終的には、同じ結論になるため無効にはならないと考えられます。